スミシー医ハーサカのブログ

医学部に入学してから卒業するまでのたわいもない話

#15 前立腺肥大症って何ですか?

Benign Prostatic Hyperplasia

 

こんにちは、スミシー医ハーサカです。

 

今回は前立腺肥大症についてお話しさせていただこうと思います。

 

 

前立腺ってどんな臓器?

皆さん前立腺という臓器をご存知でしょうか?

 

前立腺とは、(生物学的な)男性のみが持ち、生殖器の一つに数えられる臓器です。

尿を貯める臓器である膀胱の真下に存在し、栗やクルミくらいの大きさがあります。

前立腺の役割はまだ完全には明らかにされてはいませんが、

精液の液体成分を分泌するというはたらきがあります。

精液には子どもをつくるために欠かせない精子が含まれますが、

この精子にとって重要なものが液体成分にたくさん含まれています。

また、前立腺には尿の通り道である尿道と精液の通り道が合流する地点があり、

排尿および射精に関してとても大事な部位になります。

 

 

前立腺肥大症ってどんな病気?

さて、どうして今回前立腺をテーマに選んだかと言いますと、

先日より天皇陛下前立腺の検査をお受けになったというニュースがあったからです。

前立腺の肥大が指摘され、自覚症状はないものの、

入院して生検と呼ばれる検査をお受けになられたとのことでした。

前立腺肥大症あるいは前立腺癌を心配してのことだったと推測されます。

 

皆さん一度くらいは「前立腺肥大症」を聞いたことがあるのではないでしょうか。

では、前立腺肥大症とは一体どんな病気なのでしょうか?

 

ざっくり説明しますと、

前立腺を構成する細胞が多くなりすぎたために、

尿にまつわる症状を引き起こしてしまう病気」です。

 

先ほど前立腺の紹介をしたときに、

前立腺は膀胱の真下にあることと、前立腺の中には尿道が通っていることに

少し触れたと思います。

尿は腎臓で生成された後、尿管と呼ばれる管を下った先の膀胱に一旦蓄えられます。

そして、膀胱で貯めた尿は尿道を通って体外へと排出されます。

前立腺肥大症では、細胞の数が通常よりも多くなってしまうことにより、

前立腺のサイズも大きくなってしまいます。

そうすると前立腺の中を通っている尿道は増えた細胞により押し潰されてしまい、

尿の通り道は細くなってしまいます。

その結果、尿に勢いがなくなったり尿が途切れ途切れになったりして、

ついには尿が出なくなる尿閉と呼ばれる状態にまで至ってしまうこともあります。

尿が膀胱に残ったままになるのでスッキリしませんし、

トイレが近くなるので夜何度も起きなければいけなくもなります。

こうなってくると生活に支障をきたしてしまいとても困ります。

 

前立腺肥大症の治療には大きく分けて薬物療法手術療法の2つの方法がありますが、

まず薬物療法から行うのが一般的です。

 

薬物療法で使用される主な薬には2種類あります。

1つ目が「α1受容体拮抗薬」と呼ばれる薬剤です。

尿の通り道に蓋がされていないと私たちは常にお漏らし状態になりますよね?

そうならないように私たちの体は無意識的に平滑筋と呼ばれる筋肉を収縮させることで

尿道を締(し)めて尿が漏れ出ないようにしてくれています。

この機能に関わっているのがα1受容体であり、前立腺や膀胱に分布しています。

前立腺や膀胱の周りにある平滑筋を収縮させることで尿漏れを防いでいます。

前立腺肥大症では前立腺が大きくなったことでより尿の通り道が狭められています。

α1受容体拮抗薬を使用する目的は、

この尿道を締めるはたらきを抑制することで尿を出やすくすることにあります。

もう1つが「抗アンドロゲン薬」になります。

前立腺の細胞はアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンのはたらきにより増えます。

よって、アンドロゲンのはたらきをブロックしてやることで細胞数を減らし、

前立腺の容積を小さくしてやれば尿の出にくさが改善されると考えられました。

病気の本質に即した治療薬ですが即効性に乏しいのが弱点です。

 

手術療法は、薬物療法の効果が不十分な場合や、

尿閉、尿路感染症などの合併症がある場合に行われることが一般的です。

方法はいくつかありますが、TURP(経尿道前立腺切除術)が標準的です。

TURPではお腹を開ける必要がありません。

尿道から機械を入れて体の内側から前立腺の細胞を削りとっていく手術になります。

あんな小さい穴から機械を入れるの⁉︎と思われるでしょう。

私も実習で初めて見たときには驚きました。

TURPを思いついた人、色々な意味ですごいですね…

 

 

前立腺肥大症と前立腺

前立腺肥大症では、前立腺の細胞が異常に増えてしまう病気だと説明しました。

医学用語では、体内にできた細胞の塊のことを「腫瘍」と呼びます。

正常な細胞は、増えたり減ったりあるいはそのままキープしたりと、

状況に応じてその数を調節されています。

何らかの原因で細胞が増えすぎて塊となったものが腫瘍であります。

腫瘍には”良性”のものと”悪性”のものが存在します。

良性腫瘍は周囲を押しのけるようにして徐々に増えていく腫瘍のことを言います。

前立腺肥大症もこの良性腫瘍に数えられることがあります。

悪性腫瘍の細胞は非常にわがままで勝手な増え方をします。

周囲を押しのけるようにして大きくなっていくだけでなく、

滲み出ていくように広がっては辺りをめちゃくちゃに破壊していきます。

また、血管やリンパ管などを通って別の場所に移動した先で新たに増えていきます。

増加スピードは良性腫瘍よりも速く増え方もとても横暴です。

前立腺にできる悪性腫瘍には前立腺癌があります。

 

前立腺肥大症と前立腺癌は同じ腫瘍というカテゴリーに属しますが、

前者は良性、後者は悪性であり、全く別物です。

前立腺肥大症から前立腺癌になってしまうことはありません。

そのため、前立腺肥大症なのか前立腺癌なのかを正確に見極めることが重要です。

天皇陛下はこのための検査を受けられたということだと思われます。

 

 

気になる方は医療機関の受診を!

気になる症状があっても「痛くないから」「たいして困ってないから」との理由で

病院に行かない人が思いのほか多くいらっしゃいます。

ところが、病気の中にはかなり進行してからでないと

大きな自覚症状が現れないものも少なくありません。

前立腺癌もその一つです。

気づいたときにはもう手遅れなんてことがないように、

些細なことでも医師に相談するよう心がけましょう。